生産性の高いソフトウェア開発に必要なもの

Peoplewareを読んだので、大事だなと思ったことをまとめておく。

大雑把には、『ソフトウェア開発は人材がすべて。なぜ、人なのか?どうすれば人の生産性を上げられるのか』を学べた。

要約

『プロジェクトを成功するための鍵』や『人のマネジメント方法』を学べる。

第I部 人材を活用する

人は交換不能である。

第1章 今日もどこかでトラブルが

プロジェクトの問題は技術的問題(設計、製造、開発技法など)では片付けられない。ソフトウェア開発上の問題の多くは社会学的(人に関する問題)なもの。

第2章 チーズバーガーの生産販売マニュアル

ソフトウェア開発作業は、チーズバーガー大量生産のようなやり方ではうまくいかない。例えば次のようなやり方。

  • 失敗は許さない
  • 失敗したら懲罰
  • 人の替えは効く
  • マニュアル通り動け
  • 標準化せよ
  • 新しいことを試みるな。それは本部のやること

上とは、真逆のことを基本的には目指す。

  • エラーは大歓迎。知的活動では自然のこと
  • 失敗を許して、その経験を活かす
  • 人の替えは効かない。人の個性がプロジェクトを活発にする
  • 担当者に任せて、自発的に取り組ませる
  • 担当者のやりやすいようにする
  • 新しいことを試みる

第3章 ウィーンはきみを待っている

残業をたくさん課しても、無業時間(サボり)が増えるだけ。また、うまくサボれない人はワーカホリックになってしまう。『残業なんてクソ喰らえ』の信念で、本当の意味での生産性とは何かを考える。

生産性向上のやり方で、次の方法には注意。みんなウィーンに行ってしまう(退職する)

  • 長い時間働くようにプレッシャーをかける
  • 製品開発を機械的なプロセスにする
  • 製品品質について妥協する
  • 手順を標準化する

上の方法はいずれも仕事を面白味のない、やりがいのないものにする恐れがある。結果として、生産性が上がっても退職率も上がる危険がある。そういう恐れがあるということを認識しておく。

第4章 品質第一主義・・・時間さえ許せば

大抵の人は自尊心を傷つけられると激情する。開発において自尊心は、自分の作った製品の品質と強く結び付けられる傾向がある。よって、あくびの出そうな仕事をいくらこなしても何の満足も得られない。

『マーケットは品質なんか気にしない』ということはよく聞く事実であるが、エンドユーザの要求を超えた品質水準は生産性を上げる一つの手段と言える。

理由は、自尊心の観点からも、開発者自身が満足する品質基準を決めることが生産性の向上につながるため。

第5章 パーキンソンの法則の改訂

『仕事は与えられた時間に見合うところまで膨張する』という説。この本では、この説は あまり当てはまらない といっている。理由は、仕事を片付けて得られる満足感を早く得たいと思うから。

生産性を損ねる要因は、『不合理かつ非現実的なスケジュール』がある。参考データとして目標値設定において、生産性がどのように影響を受けるかを調査した結果で、次のようなものがある。

目標値設定者 平均の生産性 完了プロジェクト数
マネージャー 6.6 23
プログラマとマネージャー 7.8 16
プログラマ 8.0 19
システムアナリスト 9.5 21
目標なし 12.0 24

上記の通り、日程的なプレッシャーがある条件下では、専門家や現場が設定した方が生産性は向上する。理由は、より正確な作業工数を設定できるため。絶望的に厳しい見積りは、プログラマのやる気を削いでしまう。

面白いのは、日程的なプレッシャーを与えなかった時が一番生産性が高いという点。

パーキンソンの法則を手直しするとすると、次の節になる。

会社のルーチンワークは、就業時間に見合うところまで膨張する傾向がある

成熟の頂点にある企業で働くのが楽しくないのは、上記の理由によるものと言えそう。

第6章 ガンによく効く?『ラエトライル』

生産性向上の良い実績は、効果的な人の扱い方、作業場所や企業文化の改善等であり、特効薬のようなものはない。

生産性を向上するツールの謳い文句はたくさんあるが、本質的には解決しない。

マネジャーの役割は、人を働かせることではなく、 人を働く気にさせる こと。

第II部 オフィス環境と生産性

社員にやる気を起こして仕事をさせるには、やる気を失わせる原因を理解することが先決。作業効率を低下させる原因を究明し、健全で仕事がしやすいオフィス環境を作る方法を学ぶ。

第7章 設備警察

騒々しく、無味乾燥で次々と邪魔が入る場所に、プログラマを押し込めている限り、どんな改善策も意味がない。

設備警察は、上記のような『クソな環境』を投下コスト最小化を盾に維持しようとする組織。

オフィス環境の改善のみが唯一解。

第8章 プログラマは夜できる

就業時間外の方が雑音が少なく作業に集中できるような環境は、馬鹿げた話で、変えなければならない。

プログラマの生産性は、当然、個人間でバラツキがあるものだが、同じ企業内でみてみるとバラツキが小さい。つまり、『優秀なプログラマはある特定の企業に偏在し、そうでないプログラマも別の企業に偏って分布する』ということ。

通常の勤務時間中に、頭を使わなければならない人たちのチームをマネジメントをするのであれば、オフィス環境の整備は必須の仕事。

第9章 オフィス投資を節約すると

オフィスの投資節約効果は、生産性低下に影響することを考慮する。

オフィス投資と生産性は1:20という比率になるというデータがある。つまり、オフィス投資を100円すると、エンジニアに対して2000円投資したということになる。オフィス投資をケチることが、以下に危険がわかる。

エンジニアが効率よく仕事をするには、広くて静かな場所 が必要。

第10章 頭脳労働時間 対 肉体労働時間

マネジメント業務は割り込みだらけの仕事だが、部下の仕事はフロー状態*1が不可欠。

精神集中を妨げるもの(電話とか、上司や同僚からの話しかけとか)は、プログラマの生産性を低下し、やる気を失わせるので注意。

『今は集中時間!!』ということを外から見てわかるようにするという手も有効。(赤いバンダナ)

第11章 電話、電話、また電話

電話の割り込みで生産性が低下する。最低でも、フロー状態の時には『声をかけられない』ようにするという、寛容*2で効率的*3な企業文化を作り出すのが理想。難しいが、、、

せめて、電話じゃなくてメールにするなどしてあげよう。。

第12章 ドアの復権

オフィスを華やかにする必要はない。ただ、『邪魔の入らないオフィス環境』を整備する。

  • 静かで十分なスペース
  • チーム単位で仕切りを作り、集中できるエリアを作る

第13章 オフィス環境進化論

社員がやる気を出して気持ちよく働け、生産性が高いオフィスは次のようなもの。

  • チームには共有のスペース
  • 何人かが一緒に仕事ができる準個人用スペース
  • 騒音や外からの邪魔から隔離された個人用スペース
  • 窓のある場所で作業できる環境(外が見えるってのは、生産性や退職者数減少ということにも寄与)
  • 屋外、屋内で作業場所を選べる(賃貸なら実現可能でしょ?)

オフィス空間は、その中で進行している作業内容と共に変化し、進化する。どんな職種であっても、オフィスに自分の『匂い』をつけるのは大切。無個性なところは、働きにくい。

マネージャーの役割は、上記のような整った環境をプログラマに用意してあげること。自社内で確保できないなら、社外に移せないかも提案してみる。それで退職率が下がるなら、マネージャーとしては大きな仕事をしたことになる。

第Ⅲ部 人材を揃える

マネージャーは戦略家でも戦術家でもない。次の原則に従おう。

  • 人材を揃える
  • 人々に満足感を与え、やめないようにする
  • 人々を束縛から解放する

第14章 ホーンブロワー因子

人はそれまでの時間で人間形成がなされる。チーム内で成長を促すのはなかなか大変。だから、最初に人材を揃えるのが、とても大事。

人材選びでは、画一性に注意。他の社員と同じような見かけ、考え方、喋り方の人物は良い印象に見えることが多いが、外見で判断してはダメ。

なぜなら、同じような話や考え方しかできなくなるから。

自部門のエントロピー*4 をかく乱し、社内標準からかけ離れたとしても、適切な人材を集め、その人物たちに本来の力を発揮させることが、マネージャーの仕事と言える。

第15章 リーダーシップについて話そう

リーダーシップは奉仕の精神。主要な役割は、チームの指揮官ではなく触媒。権威を与えられなくてもリードできる性格が重要。

触媒となるためには、次のことを満たす必要がある。

  • 自ら仕事を引き受ける
  • 明らかにその仕事に向いている
  • あらかじめ必要な準備を済ませ、万全の態勢で仕事に向かう
  • 全員に最大限の価値を与える
  • ユーモアと明らかな善意のものに事にあたる

、、、ハードル高ぇ😅

第16章 ジャグラーを雇う

採用において、本当の実力がわかるということはとても重要。だからポートフォリオが大切。

適性検査は社員の自己評価には適しているが、採用には向いていない。理由は、適正で測れるのは入社数年程度で発揮できる能力であることが多い(昇進後のマネジメント力などは測れない)。

採用面接では、組織の業務と密接に関係のあるテーマでトークする。トーク内容がなんでも良い場合、面接者の得意分野の話で、不必要に良い評価を下してしまう。

第17章 他者とうまくやっていく

人材のダイバーシティは大事。多様性のあるチームの方が、新しいことを吸収しやすい。(仕事のやり方、思考体系、コミュニケーション等)

と言っても、人数が多かったり(三十人を超える)、人材が流動だと馴染むのは困難を極める。

第18章 幼年期の終わり

若い新しい時代についていく。環境*5にいるのではなく、テクノロジー*6についてく。

現代でいうと、PC、スマホ、Web、プログラミング、SNS、ブログなどは『環境』であり、『テクノロジー』ではない。

第19章 ここにいるのが楽しい

会社にとって、退職は明らかに無駄な出費。

辞める理由の大体は次のもの。

名称 内容
腰掛けメンタリティ この仕事を続けようという雰囲気を同僚が示さない。そして、退職が伝染する
使い捨てにされる予感 経営者が社員を交換できる部品としか考えていない
会社への忠誠心なんて馬鹿ばしい、と言う意識 人を部品としか思わない組織に誰が愛着を持つのか

また、会社の移転などは最悪の典型。自己中な経営者ほど、会社移転の執念が高い。会社の移転は、家族環境にも影響を与えるため、本当に社員のことを思っている経営者なら実践しない。

退職率が低い会社では、『本気でベストになろう』と努力している。全員がそう思うことで、強力な結束効果が生まれる。

また、そうした会社に共通するのは、生涯教育プログラムの充実であり、社員に新たな能力が必要なら、会社がそうしたものを身につけさせてくれる。よって、こうした会社では、仕事に行き止まりがない。

第20章 人的資産

経費とは『使って消えた金』で、投資は『資産を買うために別の資産に使う金』のことをいう。支出を 経費 ではなく 投資 として扱うことを、「支出を資産勘定に計上する」と言う。

社員への教育は、投資と同じで消えてなくならない 人的資本 と言える。これが、企業の将来に最も影響を与える重要な要素になっている。

第Ⅳ部  生産性の高いチームを育てる

挑戦的な仕事は、チームのメンバーに一緒になって努力する目標を与えるから重要。挑戦は、チームを一つにまとめる道具と言える。

人は、チームが一体となった時により良い仕事をするし、いっそう楽しいと感じる。

第Ⅳ部では、そんなチームがどんなものか、どうすれば形成できるかを学ぶ。

第21章 全体は部分の和より大なり

個人プレーよりもチームで成し遂げる成果の方が大きい。そのためには結束したチームを作る必要がある。

結束したチームを作るために、チーム内での目標統一は大切。チームは目標を達成すべく最大限の力を発揮するから。

そして、組織の目標は、組織のために働く人(社員)によって絶え間なく吟味されているが、大抵適当なものだと見られている。それでも目標は大切。

チーム編成の目的は、 目標を達成することではなく、目標を一致させること であり、目標を達成した時、チームは最大限の力を発揮している。

第22章 ブラックチームの伝説

ある目的のもとに集められたチームは、そのためだけに行動し、成長していく。チームとして、同じ方向を向いて仕事ができるため、結束した強いチームが形成される。

第23章 チーム殺し、7つの秘訣

チーム育成は農業と同じ。土を肥やして、種を蒔いて、水をあげて見守る。チーム育成成功のは秘訣ないが、チーム殺しに秘訣がある。

項目 内容
守りのマネジメント 部下を信頼しタスクを投げ、部下のやり方で自主的に進めさせる。信頼されていないと感じさせることは、助け合ってチームを結束させることに関心を示さない。
官僚主義 ペーパーワーク*7は人間の能力の浪費。ペーパーワークでは目標が設定されていたとしても、自分が成功のために必死にやっているとは感じられない。
作業場所の分散 グループの文化を形成するために、チームメンバーは近い場所に配置する。同じチームであれば、同時に静かに仕事をすることが多いため、フロー状態の中断の数も少ない。
時間の細分化 時間の細分化はチーム形成に良くない。人が覚えていられる他人とのやりとりには限りがある。複数の結束したチームに同時に身を置くことはできない。一人の人間に割り当てる仕事は、同時に一つを意識する。
製品品質の削減 自分の能力以下の製品作りを強制することは、プログラマの自負や喜びを傷つける。
はったりの納期 厳しいが不可能でない納期は決起剤となるが、はったりの納期*8は、『はいはい、出ました。いつものですね。絶対間に合わないです』と言う感じでチームのモチベーションを落とす。
チーム解体の方針 ある仕事から別の仕事に移る時に、チームを解体する方針の会社もある。会社が自らチームを壊す。アホらしい。

第24章 続、チーム殺し

チームの動機付けは、チームで設定することであって、会社が設定するものではない。動機付けのためのアクセサリー(会社から、会社のスローガンが入った盾など)を受け取っても、社員のモチベーションは上がらない。

チームには特色があり、それによって各チームが高い標準を採用する。会社によって設定されるものが、チームに響くものではないし、改善を促すものではない。

また、チーム内の負担の偏りが、何ヶ月も続くような状況ではチームは崩壊する。例えば、育休メンバーをフォローするために、他のメンバーに負担(残業)が継続する場合、結局のところフォローした社員の余暇が失われ、不満が溜まる。そして、痛みを分担しない人たちはチームから疎遠になり、チームは崩壊する。

たくさんの残業は生産性を下げるやり方ではあるが、あくまでも納期に間に合わなかった時の保険(残業して頑張ったけどダメだった)となるために実行されることが多い。

第25章 競争

競争ではなく、共同作業の経験を与える。仕事の中で教え教えられの文化を作る。現在は仕事の幅がかなり広くなっており、全てを知っているエキスパートはいない。それぞれが教師側になれる。そうした関係は、チームの結束力を高める。

競争は上の関係を壊す。教えられる側が下にみられる関係となり、相互の関係が生まれにくくなるため。

マネージャーの下記の行動は、競争を煽りチーム殺しに直結するので注意。

  • 年次の給与見直し、メリットレビュー
  • 目標管理
  • 大きな業績を残した社員の表彰
  • 成績に密着した表彰、賞、ボーナス
  • あらゆる形態の能力評価

第26章 スパゲッティディナーの効果

小さくて簡単な共同作業の積み重ねが、チームの結束につながる。チームを全体として成功させるために、小さな機会(パイロットプロジェクト、デモ・シミュレーション)をちょこちょこ提供する。

成功の秘訣は、『マネジメント』などないかのように、チームが和やかに一致団結して働くようにする。最良の上司は、管理されていることを部下に気付かせず、そんなやり方を繰り返しできる人。

第27章 裃*9を脱ぐ

チームをうまく結束させるマネージャーに共通する特性は次のもの。

  • やる気のある電話

    自尊心の高まる仕事を割り当てる。そういう仕事の割り当ては、社員の能力を認め、社員に自主性と責任を与えることになる。

    社員が自尊心の高まる仕事に責任を持つと、チームの一人ひとりは仕事をこなすだけなく、チーム内に信頼関係が報われると言うことを感じることができ、チーム形成に最も効果がある。

  • 缶詰作戦

    パーキンソン式ロボット*10にならない。

    人並みの部下であれば、部下の仕事を邪魔してイライラさせない以上のことはない。彼らのきちんと働いたかどうかは、彼らの成果によって判断すればよい。

  • 規則は破るためにある

    冷静な判断に基づく不服従は許す。どの地位の人も、どんな不服従が許されるかは知っている。それを許すことで、部下はマネージャーに対して意見できる関係になる。

  • 唇のあるチキン

    担当者レベルの人もチーム選択に意見が言えるのは大事。新プロジェクトのメンバー募集をかけたり、採用オーディションで一緒に働くメンバを選んだりといったことができるとよい。チームには特色があり、それを自分たちで形成することで、結束しやすいチームになる。

  • 誰が本当の責任者?

    職人の師匠と弟子の関係のように、自然に備わった権威でマネジメントする。権威によらないものは、侮辱やヤル気を失わせたり、同僚の職人との結束を不可能にするものではない。

    それぞれの担当分野で自然の権威として、相互に信頼された関係でこそ、チームの結束力を固める機会が高まる。

第28章 チーム形成の不思議な化学反応

化学反応のような作用で、固く結束したチームが生まれる会社もある。そうした健全な会社にする化学反応を生み出すための要素は次のもの。

  • 品質至上主義を作り出す

    『完全な製品だけを求める』というチームの気風は、チームが1つにまとまる可能性が高くなる。目標が明確だから。

  • 満足感を与える打ち上げをたくさん用意する

    チームメンバーには、共に成功し、それを喜ぶ癖をつけることが必要。チームに勢いと弾みをつけるメカニズムの一つ。打ち上げの頻度を上げるために、内部確認用としてのリリースバージョンを細かくするのも手。

  • エリート感覚を醸成する

    メンバーがエリート意識を共有すると、チーム自体もエリート性を帯び始める。そのエリート性を誇りに持ち、チームは固く結束する。結束したチームは、人を生産的にし目的意識を高くする効果がある。

  • チームに異分子を混ぜることを奨励する

    異質な人は、チームメンバに『クローンのような人間でなく、型にはまったプラスチック人間のように会社の型にはまらなくていい』という重要な象徴性を示す。チームには色が必要。

  • 成功しているチームを守り、維持する

    ヤンキースを解散させないのと同じ。結束したチームは解散させずに、新しいプロジェクトを選択できるようにする余地を与えるべき。

  • 戦術ではなく戦略を与える

    チームはネットワーク構造であり、階層構造ではない。各人が力を発揮できる分野で、時に応じてリーダーシップを発揮するようなチームで、恒久的なリーダーは存在しない。

第Ⅳ部 肥沃な土壌

プロジェクトやチームは、企業文化というコンテキストの中に存在する。企業文化の中には、健全なものもあればクソなものもある。

本章では、優れた企業文化とはどういったものかを学ぶ。

第29章 自己修復システム

自己修復できるシステムにする。

働き方の多くはメソドロジー*11として管理されることが多い。

そうした場合、決定を下すのはメソドロジーとなり、人は何も判断しなくなる。そうすると自己修復機能を失い、作業者たちは自分達にとって全く意味をなさないことをやる方向に進んでいく傾向がある。

また、メソドロジーは作業を固定的な型に押し込めようとするため、次のような問題が起きる。

  • 書類書きの泥沼化
  • 手法の不足(最良の手法にアンテナを貼らなくなる)
  • 責任感念の欠如
  • 全般的な意欲の低下

メソドロジーの効果は「方法がひとつにまとまる」ことである。メソドロジー以外にも、その目的を果たせることがあるため、実際に成功した実証事例となるまでは、下記のような方法で探索するのも手。

  • 教育研修
  • ツール
  • ピアレビュー

生産性が向上するのはホーソン効果*12によるところが大きい。

ホーソン効果を活用するには、標準的でないアプローチを使う必要がある。

標準は、どんなものでも簡潔で穏やかなものにすべき。

第30章 リスクとダンスを

リスクから逃げない。

本当に価値があるものの、リスクが全くないプロジェクトはない。そうしたプロジェクトは、すでに何年も前にやり尽くされている。

したがって、今日の重要なプロジェクトはリスクを抱えている。

よってリスク管理は大切。その中でも、自分自身が失敗するリスクを考えるのがポイント。 「完成が間に合わない」と言うリスクを管理することで、そうなったときのリスク緩和策の立案をより早い段階に考えることができる。

第31章 会議、ひとりごと、対話

目的とポイントのある会議にする。

組織が成熟すると、業務時間の中の会議が占める割合が増える。それも,儀式的な会議*13で。

何かを目的とする会議は、意味のある会議で、それ以外は意味のない会議と言える。

意味のある会議では、参加者を利害関係者に絞る。

儀式的な会議では、可能な限り削減し、削減した分を一対一の対話にする*14

オープンスペースでのネットワーキング*15も有効な手。

第32章 マネジメントの究極の罪

究極の罪は、人の時間を浪費すること。

浪費にはいくつかタイプがある。

  • 儀式的な会議

    キーパーソンと話すだけなら一対一でいい。出席者全員が何らかの問題を一緒に討議するときが有効な会議と言える。

  • 早期の過剰人員

    ソフトウエア開発では、計画と基本設計から始まるが、このフェーズは少人数の方がうまく行く。人員投入のタイミングは、ある程度見通しが立ってからの方がよい。

    納期が短縮される場合、短縮をカバーしようと早期の投入が行われるが、手が空いてしまう人が多くなってしまう。

  • 続、細分化

    タスクを細分化し、いろんな種類の仕事を1人に任せるのば良くない。種類が異なるタスクを着手する際に、頭の切り替えのオーバーヘッドがでて、ゾーン状態が解除されやすくなる。結果、思考力の必要な作業が進みにくくなる。そして、エンジニアはイライラしはじめる。

第33章 E(悪い)メール

人生は短い。何かをするために全てのことを知らなければならないのなら、大したことはできない。

社内スパム(受け取った側が知る必要があるかと言うと言う問いにノーとなるもの)は、受け取りでの時間を浪費する。

なぜ社内スパムの洪水の原因は、『沈黙は同意』という不文律が働いていること。 同意を得たいがために、いろんな人をCCに入れる。返事がなければ同意とみなす。

こうした状況が、社内スパムを産む。

まずは、送るメールが社内スパムではないかを確認してから送信しよう。

第34章 変化を可能にする

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変化には絶対に混乱が必要。変化は、失敗(少なくともちょっとした失敗)が許される場合のみ、成功の可能性がある。 失敗が許されないのであれば、混乱を経る変化は成し遂げられない。

変化への基本的な反応は、論理的なものではなく情緒的なものなので、変化を助ける方法は、古い方法を讃えることが有効。

第35章 組織の学習能力

学習は極めて重要な改善メカニズムであり、学習しないものに将来の繁栄はない。

企業の姿勢が、経験から学ぶ姿勢に変化するとき、経験は学習となり定着する。経験フェーズから学習フェーズに変化するのには、次の形態がある。

  • 組織内に新しいスキルやアプローチ技術を徐々に浸透させる
  • 現行業務を別の方式で処理するため、組織自体の再編成を行う

どちらも、自己変革中の組織には、次の絶対的に避けられないリスクがある。組織の学習能力は、組織がどの程度人を引き止められるかで決まる

第36章 コミュニティの形成

人間には、コミュニティを必要とするという属性が備わっていると考えられている。優れたマネージャーの得意なことに、コミュニティ作りがある。

満足のいくコミュニティがある組織は、退職者が出にくい。コミュニティ意識が強くなると、そこから出て行こうとしなくなるため。さらに、そこで会社が人的投資を増やすと、社員の能力が一層向上し、自分をよく感じ、会社に好感情を持つようになり、別の会社へ移る可能性がさらに低くなる。

じゃあ、どうやってコミュニティを作るかについてだが秘策はない。コミュニティの醸成には、能力、勇気、創造性、時間が必要。また、一人で成し遂げることも難しい。触媒的な働きをして、徐々に形成していくしかない。

第Ⅵ部 きっとそこは楽しいところ

仕事は楽しくあるべきだ

第37章 混乱と秩序

混乱状態から整然とした制御可能な方法を目指す進歩のほうが面白い。その進歩によって、混乱は整理されるが、そういう意味では秩序のあるものは面白みがないとも言える。

そこで、次のような、小さな混乱の建設的な導入を取りれるのも良い。

項目 内容
パイロットプログラム 新しく効果が証明されていないことを試す機会。新しいことをやることでホーソン効果も現れる。効果測定しにくくなるため、パイロットプログラムでは、一つだけ新技術を採用し、それ以外では標準を守る。
プログラミングコンテスト、実践さながらの訓練 チーム形式のコンテストにして、結束を高めるきっかけを提供する。コンテスト中は、コンテストに集中できるようにする。成功体験のため、誰もが賞を得られるようにする。
ブレーンストーミング イデアの質ではなく量で出させる。出が悪なったら、類似や逆、熟考などをする。
教育、旅行、学会、お祭り、冒険体験 仲間と一緒に同じ体験をする。冒険や馬鹿馬鹿しさ、少量の建設的混乱も望ましい要素と言える。

第38章 自由電子

自由電子*16を目指そう。

そのために、上から降りてくるどんな指示よりも、自分自身の指示が会社の最善の利益に叶うというレベルを目指す。

第39章 眠れる巨人よ、目を覚ませ

まずは、一つだけ実践して、変化を起こそう。変化を起こす際には、周囲で同じように感じている理性的だが、堪忍袋の尾が切れかかった人たちを焚きつけ、変化を渦を大きくしよう。

参考

*1:一つのことに没頭し、ほとんど瞑想状態になること

*2:かかってきた電話を無視できる

*3:そもそも電話がかかってこない

*4:一様、均質

*5:成長期に既にあるもの

*6:成長期になかったもの

*7:頭を使わずに機械的にドキュメントを作ること

*8:不可能な納期

*9:四角ばった態度をやめて、相手に対して打ち解ける

*10:部下が働いているところを歩き回り、サボったりしていないかに眼を光らせる

*11:あらゆる頭脳集約型作業をどのように進めるかについての一般的なシステム理論。あるゆる作業を標準化したもの

*12:人は何か新しいことをやろうとするの時に、より良い成績を収める

*13:時計によって終わり、特定の何かを決定する会議ではない

*14:儀式の中の対話の多くは一対一であることがほとんど

*15:会議はなく、指定時間に指定場所で、コーヒーを片手に自由に対話したい人と対話する

*16:やる気を持って、自分自身のために働いた結果が、会社の利益につながる仕事師